まもなく、東日本大震災から十年の日を迎えます。津波の被害を受けた被災地では、被災された方たちが懸命にその後の日々を歩んで来られたことをお聞きしておりますが、かつて町が存在した場所が破壊され、かさ上げや区画変更がなされたため、昔日のおもかげをとどめていない土地も多くあります。
また、「三陸縦貫鉄道」の一角をなした気仙沼線柳津-気仙沼間、大船渡線気仙沼-盛間は、すでにBRT(バス高速輸送システム)に転換され、鉄道事業そのものが廃止されています。
そして何より、東日本大震災では1万8千人を超える方々の尊い命が失われ、未だに行方不明とされている方も、数千人と言われます。一度失われた命、愛しい人の笑顔を、ふたたび取り戻すことはできません。
本書は、東日本大震災で亡くなられた方々を追悼し、失われた鉄道線を顕彰する目的で、2012年10月から2015年4月にかけて小田原漂情が執筆、Web同人誌『Web頌(オード)』に発表した小説作品に加えて、被災地と鉄道各線の貴重な写真をあわせて収載し、東日本大震災および廃止された鉄道線のことを、後世に伝えようとするものです。
表紙写真は、2020年9月26日に小田原漂情が自ら撮影した志津川の海の写真です。小説作品の最終章章題およびラストシーンも「志津川の海」となっています。まもなく十年を迎える2021年3月に本書を送り出し、忘れるべきでないあの日のことを、また鉄道線の歴史と価値とを、多くの方の記憶にとどめていただきたいと願い、ここにお届けするものです。
書名: たまきはる海のいのちを-三陸の鉄路よ永遠に ISBN: 978-4-9910776-4-7 著者: 小田原漂情 B6判: 総ページ数272ページ うちカラー口絵32ページ 定価: 本体1600円 + 税
概要 東日本大震災で犠牲になられた方々を追悼し、また津波で不通となった仙台以北の鉄道各線の昔日の姿を描くことで、復旧成った各路線、そして沿線にエールを送り、さらに鉄道復旧を断念した路線のメモリアルとして、犠牲者の鎮魂と、未来への希望を呼びかける中編小説。 1983年(昭和58年)から1987年(昭和62年)にかけて、仙石線、石巻線、釜石線、山田線、三陸鉄道北リアス線、南リアス線、気仙沼線の各線を旅する青年英介が、各地の情景や、人々とのふれあいを経て、不本意な別れを強いられたかつての同級生早希子のために強く成長し、やがて彼女を迎えるまでの4年間の足跡の中に、三陸の海と鉄道をたたえる意欲作。
★昭和四十年代から五十年代にかけての沿線の貴重な写真を数多く収載し、資料としても貴重な価値を有しています。 ◎たまきはる(魂極る)・・・「いのち」にかかる枕詞。「魂」が「命」の限りまで燃え盛り、尽きることをあらわす。生きてある者たちが、海の果てに思いを焦がし、やがてひとつの答えを見出すまでの彷徨を、今はなき三陸の失われた鉄路の上に描き出す、東日本大震災の犠牲者鎮魂と三陸縦貫鉄道顕彰の中編小説。三陸沿岸の各地と鉄道の貴重な写真を豊富に収載し、東日本大震災十年のときに捧げる、稀有なる一冊。