ねこ先生はわかいころ、マーター国の自立のために力いっぱいはたらいた、そのことがなによりのじまんだったのです。
三十ニアーほども年のちがうみけは、ねこ先生がしんさつのあとのばんしゃく(しごとのあと、夕ごはんのあとにおさけをのむこと)でごきげんになると、いつもそのはなしをきかされていました。
「うむ、わしもこんどばかりは、ほんとうにこまったよ。
だがこれは、王さまからのちょくせつのたのみでな。
もちろんわしは、たたかうわけじゃあない。
へいたいどうしがたたかえば、かならずけがをするものがいるじゃろう。
みかたも、てきも、それからじっさいはたたかいにくわわらない、メスねこや子ねこたちの中にもな。
ツグラー国でのせんそうがさけられないいじょう、そこでけがをするであろうねこたちを、すこしでもすくうために、医りょうチームのリーダーとして行ってほしいというのが、王さまのたのみなんじゃよ。まあ、わしがねこ神拳のめいじんで、じぶんをまもれるはずだということも、とうぜんかんがえてのことだろうがの。」
ねこ先生は、ふふっ、とわらいました。でもみけは、気が気でなりません。
「でもねこ先生、いくら先生が拳のめいじんだって、おおぜいのてきにいっぺんにおそわれたら、どうするんですか。わたし、こわいです。しんぱいです。」
「ふむ、たしかに、いざせんじょうにはいってしまえば、わしひとり高見の見物(ひとりでとおくから見ていること)をしているわけには、いかんかもしれん。
なんといってもせんじょうでは、なにがおこるかわからんからの。それはかくごしておる。
それにわしらがつくったねこけんぽうのことも、気にならんわけではない。」
みけはこのときとばかり、ことばに力をこめました。
「そうですよ、ねこ先生。ツグラー国へのおうえんたいの医りょうチームといっても、先生がせんそうにいくなんて、若いねこたちのためにもなりませんわ。どうかもういちど、かんがえなおしてみて下さい。」
みけはひっしでした。けれどもねこ先生は、じっとみけの目を見つめながら言います。
「しかしな、みけさん。
オスねこには、ここでじぶんがたちあがらなければならない、というときが、一どか二ど、かならずあるものなんじゃ。
わしにはこれが、二どめなんじゃよ。」
みけをみつめるねこ先生のひとみのおくに、ふかいかなしみの光がやどっていました。
「もちろん、わしも行くときめたいじょう、できるかぎりのことはした。
マーター国のねこすべてが、心からツグラー国へのおうえんにさんせいできるよう、王みずからがきちんとみんなにせつめいすること。
それから、たたかいで傷ついてかえってきたねこたちのことは、かならず王のせきにんでめんどうをみること。
このふたつを、王にやくそくさせたんじゃ。
どうかな、みけさん。
若いねこたちへのせきにんは、わしなりにはたしたと思うがの。」
「それはそうですけど・・・。」
みけはこころの中で、なきさけんでいました。
それは王さまのため、ツグラー国のため、みんなのためには、ねこ先生はりっぱにせきにんをはたすのかもしれない。
でもみけは、みけはどうなるの。
親子ぐらい年もちがうし、やとわれたかんごふでしかないけれど、でもみけは、ずっと、ずっとねこ先生のことがすきだったのに・・・。
先生はみけのことなんかなんとも思わずに、せんそうにいってしまうのかしら。
みけはおおきな目に、なみだをいっぱいためていました。
でもふときがつくと、ねこ先生の目にも、うっすらとなみだがにじんでいるようです。