「わしだって、みけさん、きみのことだけが気がかりなんじゃ。
としごろのきみを、ずっとこのねこ医院のためにひきとめてしまったしの。
だがなみけさん。きみはまだ若い。
わしにもしものことがあったら、はやく若いりっぱなオスをみつけて、しあわせになっておくれ。
じゃができるものならば、わしがかえってくるまでのあいだ、このねこ医院をまもっていてくれんじゃろうか。
きみはもうじゅうぶんに、わしのだいりとしてポンポンちりょう(ねこのあしのうらの肉球でマッサージをする、ねこ先生どくとくのちりょうほう)ができるはずだ。
わしのかわりに、このマーター国のねこたちのからだを、まもってやってほしいのじゃ。」
ねこ先生は、ふかぶかとみけにあたまをさげました。
「わたしもおともします」ということばが、みけののどのおくまででかかっていましたが、ながいことねこ先生のそばではたらいているうちに、みけにはねこ先生のこころが、すっかりわかるようになっていました。
先生はみけを信じていてくれる。
みけのことをいちばん気にかけていてくれる・・・。
やがてみけは、しずかにねこ先生に言うのでした。
「わかりました。わたしにできるだけのことをして、このねこ医院をまもりながら、おかえりを待っています。
・・・でもねこ先生?ひとつだけ、みけにごほうびをくださるって、やくそくしてください。」
ねこ先生は、いつものやさしいほほえみをうかべながらみけにこたえます。
「なんだい。どんなことでも、言ってごらん。」
「きっと、きっとげんきでかえってきてください。
そしておかえりになったときは、みけを、みけを先生のおよめさんにしてください。」
ねこ先生とみけは、だまってみつめあいました。
ねこ紀元二千ニアーまであとすこしの、春のひと夜のことだったといいます。
それからしばらくすると、西の谷のねこ医院のちかくでは、夜ごとにみけの泣くこえがきかれました。
「ねこ先生かえってきて。ねこ先生かえってきて。」
昼間は気丈にしんさつをするみけも、やはりねこです。
夜になるとさびしさに勝てなかったのでしょう。
じじょうをしっているきんじょのおじいさんねこ、おばあさんねこたちは、みけのことをあわれみました。
ツグラー国でのせんそうは、ねこしじょうまれにみるだいせんそうになってしまい、マーター国の王みずからが、さらにおうえんのへいをつれてかけつけるほどでした。
ねこ先生はせんじょうで、やすむまもなくけがをしたねこたちのてあてにはしりまわります。
そのすがたはまるでねこぼとけさまのようだったと、あるへいたいがかえってきて、マーター国のみんなにつたえました。